プロジェクト概要(2017年度)

1 初等教員養成カリキュラムにおける教科内容学習の意義・役割・相互連関(担当:金子真理子)
 現在、教員養成カリキュラムの検討と整理が喫緊の課題となっている。教科専門と教科教育との内的関連性については、広島大学における教科内容学をはじめとして、島根大学における教科内容構成学、鳴門教育大学・上越教育大学における教科内容学等による検討が進められてきた。しかし、教科間(例えば社会科と理科)、教科内の科目間(例えば歴史学と政治学)の相互関連性を視野に入れたカリキュラム開発は十分になされてきたといえない。そこで本プロジェクトでは、社会科に焦点をあて、理科と生活科の視点も考えあわせながら、初等教員養成における教科間の相互関連性を追究する。さらに、各教科内容をあわせて学ぶことなる学生の視点に立って、教科専門科目および教科教育科目の内容と構成の在り方について考察していく。これは、かつて横須賀薫氏が、教員養成大学・学部の在り方に対し、「予定調和論−専門知識教えれば、あとは学生が自分でそれを統合する」と「なわばり無責任論−自分の教えるところには責任を持つが、他は知らない」だと批判を向けたことに対し、大学として説明責任を果たす試みでもある。
 具体的な目標としては、私たちが、教員養成大学で教えられている社会科的なものの見方と理科的なものの見方について理解するとともに、これらが学生の学習の中でどのように相互に関連し、教えることに生かされていくのかという一連のプロセスを検討することである。本年度は、社会科と理科の教科専門科目および教科教育科目の授業構成の現状と課題を明らかにするために、聞き取り調査と文献調査に取り組む。授業を担当する教員に対し、それぞれの授業の内容、方法、学生に育てたい力、教員養成に対して持つ意味について、聞き取り調査を行うとともに、学内で、社会科的なものの見方と理科的なものの見方の関連性を探る領域横断的な検討機会を設け、それぞれの独自性、共通性、関連性を探る。次年度は、学生に対する授業の受け止め方に関するインタビュー調査を行う予定である。

2 教員養成カリキュラムの検証―創成期の東京学芸大学卒業生に対するインタビュー調査をもとに― (担当:金子真理子)
 本プロジェクトは、本学創成期の卒業生たちの受けたカリキュラムとその後の教職生活に関する調査研究をもとに、教員養成カリキュラムが教師の成長にいかなる意味と効果をもたらすかという検証を目的としている。創成期の卒業生に対するインタビュー調査と並行して、大学が当時実施した「新入学学生に関する調査」「学生生活実態調査」「卒業生追求調査」を分析した。本年度は、これまでに刊行した報告書や学会発表報告を深める形で、知見を整理する。

3 「多文化社会における移民の教員養成・採用に関する研究」(担当:上杉嘉見)
 本プロジェクトは、多文化共生の観点から日本の教員養成のあり方を検討することを目的とする。具体的には、多くの移民を受け入れる諸外国・地域での取り組み、とりわけ学校の教員構成に社会の言語的・文化的多様性を反映させ、また移民の子どものロールモデルとなる教員を養成する試みを取り上げ、その背景、現状、課題を明らかにしていく。
 今年度はカナダ諸州の事例に注目し、まず先行研究が指摘してきた、移民の教員資格取得や求職時に見られる問題を確認する。そして、この問題の緩和を目指す試みのうち、特に移民の教員就職を支援する大学のプログラムに焦点を絞って分析し、日本での同様の仕組みの可能性について検討する。

4 教員養成における実践的プログラムの運営に関する研究 (担当:岩田康之)
 本プロジェクトは、近年の日本の大学における教員養成プログラムの中でも、「教育実習」等の教育現場との関わりが問われる科目群に関して、その指導体制や運営、評価等のあり方を実証的に検討していくことを企図して行われている。
 今年度は、(1)教育実習を経験した学生を対象とした意識調査(日本・中国・香港特別行政区・韓国等の比較)を通じての実習の効果検証と、(2)実習の評価票を共通開発している事例の検討、の二点を主に実施し、これまでの研究成果をまとめる予定である。

5 「教員養成の構造変容に関する研究」(担当:岩田康之)
 「開放制」原則下の日本では、2005年度の抑制策撤廃を機に、小学校の教員養成プログラムを新たに提供する公私立一般大学が激増し、養成システム自体が大きく変容しつつある。こうした状況に鑑み、今年度より本プロジェクトを新たに立ち上げ、三年程度のスパンで、こうした新規参入大学の提供する教員養成プログラムやその指導体制が、既存の教員養成系大学・学部や、これ以前から小学校教員養成プログラムを提供していた伝統的な一般大学と比べてどのような特質を持ち、そうした日本の教員養成システムの変容が小学校教員の力量形成にどう影響するかを、比較研究的視野も含めて検討していく。
 今年度は、新規参入大学を含む日本の小学校教員養成機関についての基礎的な情報の整理と、典型的な事例校の検討に着手する予定である。

6 「中途入職教員に対する研修と処遇」プロジェクト(担当:前原健二)
 現在、多くの県・政令市が教員採用選考試験においていわゆる「社会人経験者」に対する優遇措置を設けている。優遇措置の内容は多様であるが、基本的な考え方として、それは教員以外の職務の経験を教員としての採用選考におけるアドバンテージとして位置づけるものである。教員として採用された後、彼らの社会人経験は初任者研修やその後のキャリア形成においてどのように考慮されているであろうか。また彼らの存在は、学校にとってどのようなアドバンテージとなっているであろうか。
 本プロジェクトは今後も一定の広がりを見せるであろう中途入職教員の研修と処遇について、@教育行政実務の観点からの実情把握、A当事者の観点からの問題意識の把握、を行うものである。
 なお、本プロジェクトは、中途入職教員に対する集中的な教員養成教育プログラムを提供しているドイツの研究グループとの共同研究を視野に入れている。

7 「ハイレベル現職教員研修の潜在的ニーズ調査」プロジェクト(担当:前原健二)
 本事業は平成28年度から3ヵ年度の予定で展開されている。「学校教育に対する新たな社会的要請に応じた現職教員の多様な職能成長ニーズに対して、教員養成の基幹大学として学内のハイレベル・シーズを活かした研修プログラムを開発・提供し、全国の教員養成系大学・学部に対し先導的な教員養成・研修モデルを呈示する」ものである。すでに学内の各部局等で実施されている現職教員対象のプログラムを集約し、より充実した形式提供することを基本にし、さらに各教育委員会・教員研修センター等の研修ニーズと学内のアカデミック・リソースの中の教員研修に活用できる要素(研修シーズ)の調査と掘り起こしを進め、大学としての現職教員研修機能の強化を図る。中期的には教職大学院に期待されている現職教員研修機能との接合も視野に入れている。
 資源の効率的利用を図るため、本事業中の教委・センター調査は第3部門の業務として実施する。また、「学校マネジメントのためのリーダーシップ研修」の具体的開発と試行を進める。