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ファイナンシャル・タイムズ紙とガーディアン紙

ファイナンシャル・タイムズとガーディアン

  ファイナンシャル・タイムズ(FT)というイギリスの新聞はアメリカのウォールストリート・ジャーナルに並んで、世界でも有数の経済紙として認知されているのではないだろうか。日本でも都市部では入手できるので、この文を読んでいる方の中にも、購読している人がいるかもしれない。同紙はイギリスに限らず、世界に販売網を持っていて、経済力の大きな都市にいけば、目にする機会があると思う。その淡いピンク色がかった用紙もアイデンティティの一部のように有名で、この色彩は同紙のウェブサイトにも反映されている。こんなふうに、いかにもこの新聞について以前から詳しく知っているような素振りで偉そうに文を書いている私は、実のところ経済問題にはとても疎く、また深い関心を常に寄せている訳でもない。株価や為替の変動の確認さえ、毎日の習慣にはなっていない。それでも、同紙は世界的なブランドでもあるし、英語の勉強もかねてという気持ちから、同サイトのニュース配信サービスをEメールで受信している。かれこれ3、4年くらいは経つと思う。メールは毎日届く。ちらっと読むこともあれば、開封さえせずに廃棄してしまうこともあるのだが、それでも私のメール・ボックスにはひたすら毎日メールがやってくる。メールの配信を申し込むときにいくつかオプションがあって、経済以外の分野のニュースにもチェックを入れておいたせいか、私のような経済問題に疎い人間の興味をそそるトピックがやってくることもしばしばある。そういう事情もあって、FTというと、私にとっては昔から全く縁のないものではないのだった。

  イギリスではスーパーなどに行けば、新聞や雑誌がいくらでも売っている。その棚をじろじろ見ていると、ガーディアン紙とかタイムズ紙といった新聞に並んで窮屈そうにFTも置いてある。ピンクの紙が意外に目立つので、朝、会社にいくときにFTを買っていくようなビジネス・パーソンには好都合だろう。私は経済紙を毎朝買うような人種ではないので関係ないのだが、それでも他紙が白い紙に印刷されているのでやけに目立つ。グラフィック・デサインという職業柄、印刷物には興味があるので、迷うことなくそのスペースにいつも吸い込まれていってしまう。そうするとたいていFTが目に飛び込んでくるのだ。

  このようにして、私はスーパーに行く度に新聞コーナーを物色するという怪しげな行為を繰り返している。そうこうしているうちに分かったことなのだが、英国の新聞は週末版というものがあって、概して、それが異常に分厚い。FTもその例に漏れず、しかも、週末版は名称が変わって、FT WEEKEND という仰々しいロゴが大きく配置されている。手にしてみるといろんなものが挟み込まれている。どれもピンクの紙に刷られているので余計な広告類ではないと分かるのだが、ひとつひとつに別々のタイトルが載せてある。‘Life & Arts’(スタイル、旅行、芸術、書籍、テレビ)、‘House & Home’(不動産、インテリア、建築、ガーデン)、‘FT Money’、そして、‘FT Weekend Magazine’。全部で4つの印刷物が入っていた。この中の ‘FT Weekend Magazine’ という冊子は経済紙らしからぬコンテンツが充実していて、私でも読んでみたくなるような特集がときどき入っている。実は、どんな特集が組まれているかを事前に知るには、配信メールを見ればいいのだ。メールは、私には、その程度に役立っている。

  FTの立ち読みに飽きて隣を見ると、ガーディアン紙の週末版が置いてあった。今日は土曜日なのだ。すかさず、それを手に取る。店員にしてみたら、すこぶる嫌な客に映ったかもしれない。私も、スーパーで新聞をじっくり立ち読みするということに、最初は多少、気が引けたものだが、人間は図々しくなるもので、ずっと繰り返しているうちに、まあいいや、と気にならなくなってしまった。例によってぱらぱら中身を見ていると、実はガーディアン紙はFT以上に週末版が分厚いことが分かる。ボリュームもすごい。本紙に加えて、‘Review(芝居、映画、書籍)’、‘Family(家族生活、結婚、子育て)、‘Travel’、‘Money’、‘Sport’、‘Cook’、そして今号は ‘The Art of Britain’ という特別冊子まで綴じ込まれていた。他にもまだある。ガーディアン・ウィークエンドというA4よりも少し大きい冊子とともに、エンターテインメント情報誌が1冊あった。こちらは、映画館や舞台、イベントなどの場所の紹介がまるで電話帳のように細かい文字で掲載されていて、テレビ番組表まで付いている。

  ところで、FTとガーディアンでは、記事にそれぞれ別の書体が使用されている。以前買ったインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙もやはり別の書体が使われていた。それぞれが何という名前の書体かは私にもちょっと分からないのだが、どれも相当に小さなサイズの文字が使われていて興味深い。デザインの勉強を少しでもしたことのある人はご存知かもしれないけれど、書体の中には、小さくても読みやすいものがある。もう少し具体的に説明すると、小さく使うときにだけ使われる書体というものもある。電話帳のために設計された書体もあるくらいだ。そういえば、タイムズ・ニュー・ローマンという多くの人にとっておなじみの書体があるけれど、これは、先ほど挙げた新聞「タイムズ紙」のためにデザインされたものだった。ほとんどの人にとっては、どうでもいいようなことなのだけれど、イギリスの新聞の話をして、書体にトピックが移ったのなら、触れない訳にはいかないような気がしたので書いた。

  そんなことをぼんやり考えながら、ふと気がついて時計を見た。ずいぶん、長い時間、立ち読みをしてしまった。さすがにそのままこそこそと撤退するのも決まりが悪いので、FTとガーディアンの両方を買って帰ることにした。たいそう贅沢な週末である。週末だけでは足りないので、一週間かけてゆっくり読んでみよう。なにしろ、気の遠くなるほどたくさんの記事があるのだ。おそらく読み切れないし、途中で挫折するだろうけれど。

▼Vol.005の原稿が届きました!イギリスで勉学に励む桐山さんへメッセージを!

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桐山 岳寛
Takehiro Kiriyama
1981年生まれ。2003年に東京学芸大学卒業。会社勤務の後、11年よりモンゴル・ウランバートルにてグラフィックデザイン教師として活動。13年からは英国の大学院でデザインを学んでいる。

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