今井 慎一 先生
Vol.17
自然科学系 技術・情報科学講座 技術科学分野

先生のご専門について教えてください

 私の専門は制御工学というものです。制御という言葉自体は皆さん聞いたことがあるのではないでしょうか。今ある電化製品など、動いているものというのは何かしらの制御がされていて、皆さんの役に立つようにプログラムされています。この制御をどのように調節すればいいのかといったことを、新しく開発することが私の研究のテーマになっています。
 これらはあまり表立っては見えないものですが、身近な家電で制御技術を使っていないものを探す方が大変なくらい多く、例えば、電気ポットであれば、ある一定の温度になったら保温になりますが、これはポットの中にセンサが入っていて、温度を計測して一定に保たれるように調節するという仕組みです。そういった制御技術は、冷蔵庫や炊飯器、洗濯機やエアコンなど、皆さんが普段使っている家電の中にたくさん組み込まれています。

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温度制御の実験

AIとはまた違いますか?

 今では制御にAIを使う場合もありますが、昔ながらの手法として、統計などの情報をもとに、数学的な手法でどう調節するかを決める場合もあります。現在の制御の起源というのは、さまざまな説がありますが、16世紀頃にワットが開発した蒸気機関の遠心調速機が制御の起源とされています。ワットは下り坂で早くなったり、上り坂で遅くなったりする機関車の回転速度を、一定にして走らせて安定化させる発明をしました。この制御をフィードバック制御と言います。
 現代の制御はコンピューターを主に使っているので最近生まれたものというイメージがあるかと思いますが、古代ギリシャ時代でも制御のようなものが使われている遺跡が発掘されています。今で言う自動販売機が古代ギリシャでも使われていて、コインを入れるとある一定の時間だけ聖水が出てくるというものだったそうです。その仕組みは古典的な制御で、コインが落ちた先に板を置き、その板が重さで下がる時だけ弁を開くという、現代のトイレの自動水洗と同じ仕組みの制御が使われていました。このようにコンピューターを使わなくても仕組みを使って調節すること全体を制御と呼ぶのです。
 しかし当然ながらAIやコンピューターの発達によって、コンピューター制御が主流になり、最近ではAIの学習によって制御を行う事例もでてきています。まだ世の中ではあまり使われていませんが、今後10年20年経つとAIが主流になる時代へと変わっていくのではないかと考えられます。

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AIを搭載したプログラミングカーの教材。スピードがでます。

先生がこの道に進もうと思ったきっかけはありますか?

 もともと小さい頃からものを作ることが好きで、勉強そっちのけでもの作りをしていました。特に私が小学2年生くらいの頃、NHKで放送していた『アイデア対決ロボットコンテスト』を見て衝撃を受け、自分たちの力でこういうものが作れるのなら、自分でも「作ってみたい!」と思いました。そこで、ロボットをつくろうと、いろいろ突きつめていくと、ロボットの外見ができあがっても、そのロボットをどういう風に動かすのかということがすごく重要なんだってことに気づきました。中学を卒業した後は高専に進み、5年間ずっとロボットを作っていました。先ほど言ったNHKのロボットコンテストにも、3年連続で全国大会に出場しました。大学に行ってもずっとロボットを研究したり、趣味でもつくったりしていましたね。そして最終的には制御工学の道を選びました。私の場合は親の理解もあったので、小さい頃から好きなことをどんどんやらせてもらえたことが、今につながっているなと思っています。

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先生が10代の頃制作したお城ロボット

先生の研究テーマを教えてください。

 今、私は制御工学に関する研究と教育に関する研究を、二本柱で行なっています。一つ目の制御工学では、私は適応制御というものを専門に研究をしています。適応制御とは、例えばエアコンの制御でいうと、夏と冬で環境が違うように、環境が異なっても条件に応じて適応的に制御を変えるためにはどう調節すればいいのか、制御の新しい方法を考えることです。
 教育に関する研究としては、昨年、文科省で教材設備指針というのが提示され、今後3Dプリンターが中学校に導入されることが決まったので、授業で3Dプリンターをどのように使えばいいのか、提言を行うための研究をしています。例えば、どのくらいの大きさにしたら設計図に近い造形がつくれるか、授業時間内に終わるのか、そういった実験を行ったりしています。

教師側が3Dプリンターの扱い方がわからないという問題が存在しそうですね。

 実際そうだと思います。3Dプリンターを触る機会が今のところほとんどないでしょうし、学校に3Dプリンターが入ったからといって、どうやって使えばいいか悩まれるのではないでしょうか。今回導入が決定したのは中学校だけですが、今後小学校や高校にも大きく普及していくと私は感じています。というのも、3Dプリンターは授業以外の場でも使い道があって、例えばペン立てなんかも作れますし、体育の先生が使うような笛などの消耗品も作れます。先生たちが授業で使う教材や教具にも活用できますし、様々な可能性を秘めているので、今後普及していくのかなと思っています。直近の課題としては3Dプリンターという言葉自体は知っていても、実際の使い方がよくわからないことではないかと考えています。その取り組みの一つとして、学芸大学の公開講座で、3Dプリンター入門という講座を、毎年教員向けに開いてもいます。

大学でどのような授業をされていますか?

 私が主に担当しているのは、コンピューターの中の仕組みについて学習する計算機ハードウェアの授業です。具体的にはコンピューターがどう動いているのか歴史をたどりながら基礎から学習していき、最終的には簡単なコンピューターを自分たちで設計できるような技能を身につけてもらうという授業です。また、私の専門の制御工学に関する「計測と制御」という授業も担当しています。この計測と制御という授業でも、制御の基礎であるセンサやアクチュエータ(モータなど)の使い方から学習し、バスの降車信号装置や信号機、非常用のベルのモデルをシーケンス制御という方法を用いて設計できるような力を身につけてもらいます。基本は情報科の学生が受ける授業ですね。

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 これは、授業で使っている教材で、マスタースレーブという制御の技術を用いていますが、右側のつまみを動かすと、それに追従して左側の腕が動きます。ある医療ドラマで、遠隔の離島で医師が行けない状況でロボット手術を行うというのがあったのですが、そこで使われている技術と同じものです。制御がうまくいかないと、おかしな挙動をしてしまいます。この黒い部品がコンピューターで、中に指示したいプログラムをいれているので、このプログラムをどのように書き換えるとうまく制御が動くかというようなことを学生たちが試行錯誤しながら学習していくというような授業をつくっています。

おもしろそうですが難しそうですね。

 制御っておもしろそうですが、じつは紙とペンで証明していくような研究です。自然界にあるいろいろな現象を、コンピューターや人間がわかる形にもってくるにはどうすればいいかというと、それを数式で表すしかないんです。中学校や高校で習った運動方程式、等速とか加速とかは、式であらわすことができますね。そういう自然現象を数式で表現することをモデリングといい、モデル化したものを評価して、コントロールできるように設計するという作業が制御なんです。
 ただし、制御の本質は数式を解くことではなくて、どのようにすればうまく制御できるかということです。これは制御系設計というのですが、制御の調節の方法を設計することに、より興味関心を持って理解してもらうために、いろいろな教材や実験装置を自分でつくって、授業で使っています。授業の中ではできるだけ工夫をして、あまり数式を使わずに実験で理解できるようにしています。

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 大学を卒業した後に十年間ほど母校の高等専門学校で教員をしていたのですが、私が高専や大学の工学部で受けてきたものと同じような授業をしたら、高専の学生にはウケが良くなくて...それが最初の挫折でした。そこからより良い授業をするためにはどういう風にすればいいのかというのを考え始めたことから教育の重要性に気づきました。実はそれが学芸大にきた大きな理由の一つです。

先生のご趣味について教えてください。

 いくつかありますが一つは食べ歩きですね(笑)。食べることが好きなのでいろいろなお店を回っています。特にからあげが好きなのでよく食べ歩いたりしています。
 他には、ものを作ることが好きなのでDIYもやっています。でも実は手先は不器用で、ノコギリなどの工具を使うことが苦手なんです。なので、ものを作る時も基本的に自分で加工して作ることはなくて、自宅にも3Dプリンターがあるので、コンピューターに任せちゃってます。何をつくるかというと、本棚を造ったこともありますし、最近だとテレビの裏の配線を隠すカバーを作ったりしました。
 さらにもう一つあげるとしたら手品ですね。手品は披露することよりも技のギミックを知ることが好きという部分が大きいです。

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ワークショップ用の電光掲示板

最後に、学芸大生へ一言お願いします。

 今、学芸大のキャンパス内にあるExplaygroundの建物の中に、ファブラボと呼ばれる施設が設備されつつあります。この施設は、学芸大生はもちろんのこと、近隣の住民の方にも使えるようなサービスになるみたいなので、少しでも興味があれば是非そういうところを活用してもらいたいということを切に思っています。施設の設備には3Dプリンターをはじめ、レーザー加工機などがあります。また、今後BIESSEというコンピューターで自動的に彫刻(加工)する木材用5軸加工機が導入される予定です。そこで新しい出会いや発見を見つけて欲しいと思っています。

取材/今野由唯、渡部光

今井 慎一 先生

Profile

今井 慎一 先生

広島県出身。2005年長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程(電気・電子システム工学専攻)修了。同年4 月広島商船商船高等専門学校技術職員,2007年4月同電子制御工学科助教,同高専准教授などを経て,2016年東京学芸大学技術・情報科学講座技術科学分野講師となり現在に至る。博士(工学)。制御系の設計および制御教育に関する研究に従事。電気学会,日本機械学会,計測自動制御学会,日本産業技術教育学会,日本情報科教育学会などの会員。