学長室だより

突然流れた「ひまわり」のテーマ。

西武線の所沢駅には、エキナカピアノがあります。ピアノを習っているお子さんや、若い女性などが弾いていることが多いように思いますが、昨日通った時、空いていたピアノに、コートやらマフラーなどで着ぶくれた私などよりも年かさの、失礼ながら風采の上がらない感の男性がおもむろに歩み寄り、鍵盤に手をやりました。どうするのかと思っていたところ、なんと流れてきたのは、映画「ひまわり」のテーマ・ミュージックでした。何とも見事な腕前で、その場を離れることができなくなりました。

「ひまわり」は、1970年に日本公開で、私は映画館では見たことがありませんが、TVで何度も見ましたし、ビデオソフトでも見、DVDとなったものも我が家にはあります。第2次世界大戦の、ソビエト軍とイタリア同盟軍との戦いに巻き込まれて引き裂かれたイタリアの男女の悲劇で、最後の、駅でソビエトに戻るアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を見送るジョアンナ(ソフィア・ローレン)が、こみ上げるものを抑えきれなくなるシーンには、心打たれました。エンドロールには、延々と広がるひまわり畑が重なり、流れるヘンリー・マンシーニのテーマ曲は深く余韻を残すものでした。このひまわり畑はウクライナで撮られたものと聞いています。

第二次世界大戦でもっとも多くの死者を出した国は、ソビエトです。三千万人とも言われていましたが、現在では二千数百万人と言われています。それにしても、大変な数の死者です。人口の1割を越え、このため、人口動態が異常になったと言われるくらいです。ソビエトは、ナチスの台頭で戦争が必至という情勢になると、社会主義国としては、考えられないような外交を行いました。独ソ不可侵条約の締結、ナチスとのポーランド分割、フィンランド戦争、バルト3国の併合などで、これらは、社会主義者の間でもソ連への不信を生んだとされます。しかし、こうしたことは、侵略をふせぐため、また、侵略を受けても犠牲を少なくするためになりふりかまわずスターリンがとった手立てであり、それには、異民族の侵略にずっと苦しめられてきたロシアの歴史も関係しているという解説を読んだことがあります。そうした手立てをとっても、かの大戦での犠牲者数は最大となったのでした。

今、ロシアとウクライナの軍事的緊張が高まっていて、外国人は退去を始めているとも聞きます。第2次世界大戦時、ロシアとウクライナは、ともにソビエトに属していました。先に挙げた戦死者数も、現在の両国の人たちが含まれてのことだと思います。そうした国と国とが、戦火を交える一歩手前というのは、なんとも残念なことです。外交手段で何とか解決をと思います。

―――そのうちに、男性の演奏は「ひまわり」を終え、「星に願いを」に切れ目なく移っていました。やはり見事な腕前でした。

ソビエトの買い物(3)― 笑わぬロシア人 ―

ずいぶん間があいてしまいましたが、ソビエトでの、新生ロシアでの買い物の続きです。笑わないというロシアの店員さんの接客態度に、買い物がだんだんと苦痛になってきたというところまで書きました。学長室だより(2021年12月17日)

私が行ったマクドナルドも同じでした。マクドナルドがあるのは、ロシアの外務省の近くで(この建物も、雀が丘のモスクワ大学と同じで、スターリン・ゴシックと言われる7つの建物のひとつです)、中心地と言っていいかと思いますが、そこの店員さんもまったく笑わない接客でした。ガイドさんに聞くと、最初は笑っていたそうですが、だんだんこうなったそうで、接客マニュアルより、やはりその国の文化の方が強いということでしょうか...。

そのマクドナルドで若い女性の店員さんに真顔で注文を執拗に聞き返され(あちらは私が行った当時は英語があまり通じず、片言のロシア語で注文するものですから、当たり前と言えば当たり前なのですが)、店員さんがこれみよがしに肩をすくめるのを見た時に、あぁここは言葉の通じないところなんだ、なら何を言ってもいいんじゃないかと、何か旅の恥はかき捨てのような気分となり、言い返してみることを思いつきました。

挑んだのはスーパーで、そこは、店員さんが座ってレジ打ちをするようになっているところでした。対戦相手は、若いけれどもかなりの体格の女性で、まるでその人をレジの前の椅子にはめてからまわりをいろいろと囲ったかのようで、レジ・スペースの出入りはどうしているのか??と疑問が浮かぶような状態の方でした。かなりの強敵と思いましたが、勇を奮って大きなお金を出したところ、下からジッとこちらを見上げ、ニコリともせず、案の上"ニェット!!(ダメ!!)"と発せられました。来たなと思いつつ、さらに勇を奮ってこちらも笑わず、ジッと相手を見て、"ニェット!!"と言い返しました。すると、ややあって、彼女が仕方ないという風情でレジを探り、お釣りの小銭を出してきた時には、勝った!と思いました。そこからは、この手でやればいいんだと自信がつき、買い物も苦痛でなくなりました。2週間ばかりの滞在でしたが、その間買い物を続ける中で、日本では、物を買うにしても店員さんに妙に気を遣っているということに気づきました。そして、こうしたやりかたは楽だと思うようになりました。無駄に笑わないというだけでも随分と精神的に楽なのです(人間がわるいのでしょうか、わたくしは...)。

そこで思い至ったのが、われわれの業界で言うところのSST=ソーシャル・スキル・トレーニングというものです。これは、人が社会で生きていく上で必要となる人間関係やコミュニケーションに関わる「技術」「技能」を学ぶことを言い、自閉症や発達障害など社会性に障害をもつ人を対象に行われることが多いものです。こうしたものの必要性というのは、ロシアのような国では大分違うのではないかと思ったのです。見知らぬ人に話しかける時には笑顔で、というようなことはロシアではないように思います(間違っていたらすみません)。これは、SSTと、英語ですので、アメリカが発祥の地かと思いますが、アメリカは、訴訟社会と言われるように、人と人との関係の緊張度が高い国だと思います。そうした国では、緊張を和らげるためにこうしたスキルの要請が強いのではないか、つまり、こうしたものの必要性というのは、国によって、場所によって違って、地球の普遍的な事情ではないのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか...?

前々回、外貨ショップ・ベリョースカの買い物システムが日本のスーパーなどと同じだったと書きましたが、ちょっと気になって当時のガイドブックを見たところ、一般と同じだと書いてありました。気になったというのは、写真でお示ししたレシートの裏に何かあちらの人が書いたと思われる数字が(ぐちゃぐちゃと)書いてあったからです。記憶がどうも混乱していたようです、すみません。となると、まずカウンターでその値段分のレシートを打ってもらい、それをКАССАに行って払い、レシートの裏に払った金額を書いてもらう、それで払った証拠にするということかと思いますが(カウンターで値段を書いてもらった紙に、レシートの印字をするというのはまず不可能でしょうから)、しかし、そうだとすると、あんな数字ならだれでも書けるようで、証拠になるかなぁと思うのですが...。また、外貨ショップなのに、レシートがルーブルというのは、価格の表示がルーブルだったからなのですが、このあたりまでは憶えているのですが、しかし、そうすると、外貨とルーブルの変換をどこでやったのか、レジでやったのか???ちょっと思い出せません、すみません。

下の1枚目の写真は、ロシア外務省で、この建物も、上に記しましたように前回紹介した雀が丘のモスクワ大学と同じスターリン・ゴシックと言われる建物のひとつです。2枚目の写真は、その近くにあったマクドナルドで、上に記したお店です。窓ガラスにロシア語でマクドナルドと書いてあります。映っている人物は、恩師を同じくする後輩たちで、左から葉石光一現埼玉大学教授、野口和人現東北大学教授、小松歩現白梅学園大学教授です。当時はみな准教授で、そう言えば私も准教授でした。写真を載せることは話してませんが、ま、いいでしょう...。

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