学長室だより

「もう限界です」

本学のHPのニュース欄にも掲載されておりますように、国立大学協会(国大協)が、国立大学の財政状況について、「もう、限界です」とする声明を、先週、6月7日に発出しました(国立大学協会理事会「我が国の輝ける未来のために」)。これは、全国86国立大学の学長の偽らざる心情だと思います。

「 国立大学協会声明------我が国の輝ける未来のために------」について

本学では、光熱水料の値上げやその他の物価の高騰も、当分の間教員人事を凍結し、その後新たな人事計画を立て、さらに、物件費をギリギリまで切り詰めて、何とかしのいできました。が、ここにきて、景気動向を踏まえた人事院勧告によるベースアップや定年延長等への対応を迫られる事態となり、収入、特に国から大学に配分される運営費交付金が増えないことには、対応は困難というような事態となっています。言うまでもありませんが、教職員の給与が増えることや、年金支給年齢まで定年が伸びることは、働く人間にとってよいことです。であれば、余計にそれへの対応が困難となる事態は、まったくもって無念と言う他ありません。

こうした厳しい財政状況に加えて、さらに、教員養成系大学・学部には、教職調整額の問題が重くのしかかっています。

教職調整額とは、公立校の教員に残業代に変わるものとして、基本給の4%分が手当として支給されているものです。この教職調整額を10%以上に引き上げるということが、中教審で議論され、現実的となっています。教員の処遇が、給与面でよくなるということは、これもまた、言うまでもなくよいことなのですが、附属学校を有している国立の教員養成系大学・学部には、財政上実に悩ましい問題となっています。

教職調整額は、今は、公立校のみがその適用範囲で、附属学校は、国立大学の法人化後、法令上は、教職調整額の適用の範囲外です。ですが、附属学校では、県や市の自治体から多くの教員を人事交流で迎え入れています。もし、附属学校と公立校で給与水準に違いがあると、人事交流はスムーズに進みません。また、採用に当たっても、公立校より給与水準が低いと、附属学校は、優秀な人材を確保することができません。それゆえ、もし公立校の教職調整額が、10%に引き上げられたとすると、附属学校でも、教職調整額相当分をそれに合わせて、10%とすることは、必須です。

が、しかし、声明にあるとおり、国立大学の運営費交付金は減額されたままです。これらに対応するための財源の確保は、きわめて困難であり、声明の言葉どおり「もう限界です」。運営費交付金などによる支援が必要です。繰り返しになりますが、附属学校教員も含め、教員の処遇が給与面でよくなるということは、よいことです。であるのに、これが困難になるというのは、教員を養成している身として、まことに忸怩たる思いです。

本学を含む国立の教員養成系大学・学部は、附属学校を学内の重要な教育実践の場として位置付け、専門的で高度な教員養成を進めてきました。そして、今後も、引き続き我が国の教員養成を牽引していくつもりです。

今回の声明も、国立大学が、わが国の未来を創造する人材育成と高度で先端的な研究推進に重要な役割を果たしてきたと言い、今後も我が国の産業、教育、医療、福祉などに十全の責務を負っていくという国立大学の覚悟を言うことから始まり、輝ける未来に向けて、3つのことに取り組むことを宣言し、タイトルにある「我が国の輝ける未来を創り出すために」、「皆様の理解と共感、そして力強い協働をお願いする次第です」と結ばれています。まったく同感です。

こうした財政状況に対するご理解と、ご支援を心からお願いいたします。本学の財政についても、まさしく「限界」です。運営費交付金の増額など文科省へのお願いも含め、あらゆる手立てを尽くさねば対応できないと思っております。大学基金も設立しておりますので、恐縮ではございますが、ご寄付などもお願いできればと幸いです。

ご寄付のお願い

角田夏実さんのパリ・オリンピック柔道出場壮行会(4月13日)

もう1カ月前のことになってしまいましたが、4月13日、本学柔道部OBOGを中心メンバーとして、角田夏実さんのパリ・オリンピックの出場の壮行会が、立川のホテルを会場にして開催されました。ご本人ももちろん出席され、スポーツ紙などにも報道されました(【柔道】角田夏実「結果で恩返ししたい」母校・東京学芸大柔道部主催の壮行会で金メダル宣言― スポニチ Sponichi Annex スポーツ)。私は、残念ながら所用のために出席できませんでしたので、メッセージを、OBの方に代読してもらいました。その原稿を、以下に貼り付けます。

オリンピックまで、あと3か月を切りました。角田さんは、調整のために本学で練習することになっていて、私も道場に出向いて、激励したいと思っています。プレッシャーとはなりたくないのですが、しかし、パリ・オリンピックが大いに楽しみです。

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角田さん、あなたの素敵な笑顔が、また、本学のホームページを飾っていますよ。アンタルヤのグランドスラムで優勝したのですね。世界選手権で3連覇を成し遂げ、パリ・オリンピックの出場権を獲得した上で、さらに、ダメ押しのグランドスラム優勝!内容は、と見れば、今回もまた、すべて一本勝ち。破竹の勢いとはこういうことを言うのでしょうね。なんとも立派です。あなたに、栗山英樹WBC監督に次ぐ2人目の本学栄誉賞を授与したのは、昨年の10月でしたが、さすがは、本学の栄誉賞の受賞者と、その活躍ぶりは、なんとも誇らしい限りです。

「練習量がすべてを決める」柔道。これは、作家の井上靖さんが、自らの青春記と言ってよい小説「北の海」の中で、寝技のことを言っている言葉です。あなたの強さの中には、言うまでもないことですが、抜群の寝技の強さがあります。「練習量がすべてを決める」寝技に、あなたのような立ち技でも超一流の選手が取り組んでいくのは、容易なことではないと思います。だって、立ち技でも十分に勝機があるのですから。しかし、逆に、あなたのようなセンスのよい選手が、寝技にじっくり取り組んだら、向かうところ敵なしになるというのは、当たり前のことと思います。根気を要する寝技の練習の中では、つらい時もあったのではないかと思いますが、そうした中で、あなたは、何かをつかんだのですね。というより、何かが降りてきたかもしれませんね。

角田さんが3年生の2013年、全日本学生柔道優勝大会の女子3人制で、本学は、射手矢先生の指導の下、あなたを有力メンバーとして、全国優勝しましたね。おかげで私は、生まれて初めて、日本一のチームの関係者の一人となることができました。これは、私などの柔道歴では到底望めなかったことで、私は、あなた方と、射手矢先生とに、そうしたところまで連れていってもらったと感謝しています。パリ・オリンピックまで4カ月を切りました。パリ・オリンピックでは、メイン・ポールに日の丸を上げて、いっそう素敵な笑顔で本学HPを飾ってほしいと思います。大いに期待しています。

東京学芸大学長 國分 充