保存科学

第1回

E類生涯学習 文化遺産サブコース
保存科学

文化財は良きにつけ悪しきにつけ、人類の道のりを有形無形に残しています。その評価は時代によって異なりますが、失ってしまえば後世その時代の評価ができなくなります。文化財は歴史の記録という人類共通の財産なのです。
しかし、文化財はただ放っておいただけでは後世に残してはいけません。その材料、材質、構造を見極め、必要な強化措置や場合によっては修復を行い、適切な保管環境の中、保存していく必要があります。
劣化の防止や正しい修復方法の選択のためには、自然科学的調査研究が必要なのです。

ちょこっとのぞきみ

「保存科学演習」

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保存科学とは、自然科学的手法を用いて文化財・文化遺産についてその劣化や破損を防止するための調査研究や、すでに腐食や虫カビの被害などを受けてしまった資料の保存処理、修復などのための材料・技法の開発を行っていく研究分野です。具体的には、温湿度および紫外線測定と虫害虫・カビ菌類の存否確認による資料保管環境調査、分析機器を使った材質調査、透視X線による構造調査、合成樹脂や薬品を用いた金属製品の防錆、強化処理法の開発などがあります。

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本授業では2つの課題が用意されています。
まず文化財・文化遺産活用の立場から、仮に博物館学芸員など教育支援職についたとして、地域の歴史的建造物や遺跡などを小中学生に解説する模擬授業の案を作成し発表します。これには日本ユネスコ協会連盟が発行している世界遺産教育のための授業キットなどを参考にしています。

さらに、文化財・文化遺産についての基礎的知識を習得するため、学生自ら関心のある文化財・文化遺産について、まずその性質や現状を調べたうえで保存や修復を行っていくうえでどのような課題があるか、保存科学の観点から検討を加えその成果を発表します。
写真の授業風景は、正倉院所蔵の楓蘇芳染螺鈿槽琵琶と螺鈿紫檀五絃琵琶を比較しながら、螺鈿の材料や制作技法などに関する先行研究について発表している様子です。

学生からのメッセージ

奥山 さん

私が文化遺産教育サブコースに進むことを決めたきっかけは、一年生の秋期に選択した「考古学研究法」という講義でした。当時の私は司書を目指していたため、生涯学習サブコースに進むつもりでした。しかし、「考古学は人類誕生から今日まですべてが関わる」という言葉から始まり、人が遺したあらゆる痕跡を辿り研究する学問の楽しさに魅せられ、文化遺産教育サブコースへの道を進むことを決意しました。その時のノートは、今でも大切にとってあります。
元々予定していた道とは全く違う世界だったので、学習の面で戸惑うことや苦労することも多いですが、とても充実した学びの毎日を過ごすことができています。

教員紹介

服部 哲則 先生

文化財、文化遺産は過去から現在まで、人類の足取りを知るために不可欠な情報を提供してくれます。これらは、学校の教科書や資料集の写真や文章でも学ぶこともできますが、博物館、美術館、遺跡や史跡、寺や神社、または古い街並みなどに足を延ばせば、その実物を目にすることができます。しかし、それらが歴史的文化的にどのような意味があり、価値があるかは、専門家による調査研究が必要です。また、これらが今後もその形や色、機能を維持していくために、経年による劣化から守らなければなりません。私ども文化遺産教育サブコースでは、考古学を中心とした調査研究、材質調査、保管環境調査、保存処理・修復法などの開発研究を通して、学校教育、生涯学習にも活用されるべき文化財、文化遺産について、より深い理解とそれらを守っていくために必要な知識、技術の習得を目指しています。

文章・写真/乗松まりな、小林慈樹、虫谷涼香

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